2006年08月31日
● クロ


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20代前半の柳美里と6年間ともに暮らした初代クロ

 猫と暮らして五年になる。
 ある戯曲で、<女が砂を掘ると、砂の中から黒猫が出てくる>というト書きを書き、舞台監督に黒猫を捜してくれるよう頼んだ。
 舞台監督は数日後に、空気穴をあけた靴箱を抱えて稽古場に現れた。私はその中に入っていた埃の球のような生後一ヶ月の汚い仔猫を掌に乗せてみた。猫は、私の掌から果敢に飛び降りて、役者たちにじゃれつきはじめた。客席に逃げ込んだら困るのと、砂に猫を埋めるなんて残酷だという劇場からの反対があったのとで、猫を出演させることを断念した。
 「保健所に連れて行きましょうか?」舞台監督が静かに訊いた。
 「車通りの少ないところに捨てればいいんじゃないの」主演女優は、缶詰を食べ終え、顔を洗う仕種を繰り返している猫の尻尾を握った。
 その夜、私は猫をマンションに連れ帰った。
 ベッドに仰向けになると、猫は私の軀の上に乗った。左胸の上に顔を乗せて、私の呼吸のリズムに呼吸を合わせた。
 その日からクロと名づけたこの猫は私と暮らすことになった。

 『魚が見た夢』「ふたり暮らし」


 最期を看取るまで眠るまいと思っていたのだが、朝八時過ぎ、クッションを枕にして眠ってしまった。気配を感じて目を醒ますと、クロが軀を揺らしながらベランダのトイレに向かって歩いていくところだった。部屋とベランダの格差で、転んだが、脚を踏んばって立ち上がった。見てはいけないものを見ているような感じがした。息をするのもやっとなのだから、もらせばいいのだ。医者も、最近猫を亡くした友人も、死ぬ前は糞尿を垂れ流しにするといっていた。彼はトイレの砂の上で目を開いたまま倒れていた。砂がほんの少し湿っているのが見えた。
 トイレに行くのに力を使い果たしたのか、それから三十分後にクロは死んだ。最期は数分間、母猫の乳を揉むように前脚を動かし、ケッケッと息を吐き出しつづけたが、やがて静かになった。
 保健所に電話してどうすればいいか訊いた。清掃事務所に電話するようにいわれた。二千六百円支払えば、一時間半後に引き取りにきてくれるという。
 「火葬して、骨は川崎にある共同墓地に埋葬します」
 「墓地はどこでしょうか」
 「ああ、お参りに行かれるんですか、パンフレットがあるから持たせますよ」
 外に出て、薬局の横にあるダンボールを譲ってもらい、花屋で五百円の白い小菊の花束を買った。
 清掃事務所の係員にクロを引き渡した。バンが発車すると、荷台に乗せられたたった一個のダンボールが幽かに振動した。車が角を曲がるまで私は見送った。

  『魚が見た夢』「クロ逝く」


園長は、それから約10年、動物を飼うことはなかったのですが(なぜふたたび動物を飼うことになったかに関して、動物紹介のあとで園長にインタビューをしようと思っています)昨年の7月9日にノンタ(ミニチュア・ダックスフント:オス)が、10月28日にグルトラ兄妹、そして11月6日にクロが園にやってきました。

クロは、箱に入れられ捨てられていました。
近くには別の猫もいて、その猫たちを警戒してか倒木のあいだに身をひそめていたそうです。
クロを発見したひとが、ある掲示板で、仔猫を誰か助けてほしいと訴えました。
投稿をみたひとは、「あなたが、まずは助ければいいでしょう」と言います。
投稿者は、自分が猫を飼えない理由を並べ「食餌と水だけはあげた」と言います。

そのやりとりを見ていたあるひとが現場へ行き、クロの保護主さんとなりました。
保護主さんは<いつでも里親募集中!>に投稿しました。
園長が、あとになって言うには「クロに似ていた」んだそうです。
問題は、その話を聞いたのが、クロが園にやってきたあとだということ。
あぁあ、まったく……いつもそうだよ。
園長は独断のひとです。
「ねぇ、ちょっと見てほしいんだけど」
そんな言葉には要注意。
もう飼うことを決心したか、それとも明日あたり園にやってくるか。

案の定、数日後の雨の日に、保護主さんはクロを連れてきてくださいました。

保護主さんによると、クロは9月前半生まれなのではないかということでした(捨て猫たちの生年月日は当然のことながら不明)。
保護主さんがキャリーから出すと、クロは園の床を歩きはじめ、しばらくして水を飲みました。
あぁ、これなら大丈夫です、と保護主さんは安心してお帰りになられました。

しかし、保護主さんの姿が見えなくなった途端、コピー機の下に潜り込み、食餌も水も口にしない……
その夜から園長と保護主さんのメールでのやりとりがはじまります。

園長「トイレのあとに砂を埋める仕草、あるじゃないですか、食事を出すと、あれを器のまわりでやるんです」
保護主「はは、あのチビ黒ちゃんが、そんな大人びたことをしてたんですかー
^^; いつの間に覚えたんでしょうね? 日々成長してるってことですね。」

園長「グル&トラと仲良くなれば、リラックスして食べてくれるのではないかと期待したのですが……食べてくれません」
保護主「大丈夫です。まだやっと2匹のチビちゃんの存在に慣れつつある段階でしょうから」

当時、グルもトラも450グラムと小さく、生後2ヶ月ほどでやってきたクロは1140グラムで、見た目も実際の重さも倍近い。
11月です。寒いです。
仔猫ですから保温にはいちばん気をつかいます。
暖気を逃さないためダンボール内にペット用の電気カーペットを敷き、低温やけど防止の毛布でくるみます。
グル・トラと同じダンボールに入れたところ、クロがグルの首根っこ、トラの腹を食いちぎろうとしている!(ように見えました)
「わぁわぁわぁ、やめてあげてやめてあげて」
「どうするの?」
「やめさせてあげてやめさせてあげて、殺されてまうから。ちょっと君、君、クロをはやく」

急いで近所の雑貨屋さんからダンボールをもらってきて、カッターナイフで天井部分を切り取り、ガムテープで補強する。
食餌をあげてみる……食べない……どうしよう……

結局、1週間くらい食餌に口をつけなかったのですが、自然に食べるようになり、グル・トラとも仲良くなり、ふと見ると母猫のごとく振舞っているではありませんか!
トイレの仕方から、食餌の食べ方、毛づくろいの仕方、走り回り方まで。
とにかくクロの母性本能には感服しました。

クロをひと言であらわすならば、孤高。
食餌をみんなで並んで食べていても、腹八分目でやめてしまう。
園長と飼育員が歯を磨くためにソファーに座れば、他の猫たちはワラワラと群がってくるのに、クロだけはコピー機の上でクルリと丸くなっている。
1匹になれる場所で眠るのを好む。
熟睡していると思ったら、スルリ、トットット、ピョーン。
網戸に爪をかけて、セミやガを食い殺さんとする。

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最初は園長の手からしか食べなかった
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じょじょに本性があらわれる
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グル・トラの母親と化していた頃のクロ
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一足先にごちそうさま。
注:首輪はグルが食ってしまうので、廃止になりました。
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眠りの森の猫と園長
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まぁだだよぉ

クロ……クロは猫だ、と思う。古風で、猫らしい、猫。
ラン屋・カメ屋さん、どう思われますか?

ラン屋・カメ屋「クロは、あんまりゴロンとしない。ノビノビをよくしてる。あと、僕がなでると、ゴロゴロする。クロちゃんは、いい子。あとよく、前は2階にいた。今ではよく飼育員C(ラン屋・カメ屋は園長のことを格下呼ばわりする。わたしは飼育員B)の仕事場のFAX機の上か、ハンコ棚にいる。クロちゃんはゴロゴロすると下を向いてるような顔になる。耳の後ろが白い。クロちゃんは、僕たちが夜ゴハンのときになっても、あまり出てこない。ちょっと待って、マイク持つからね。んん、あとは、クロちゃんは真っ黒いね、よく真っ黒い。あとなんか、日本猫みたいな感じがする、うふふっ。あとは……呼ぶと、よくニャアっていう。あとは、そうだなぁ、しっぽがカギみたいに曲がってる。それでなんか、曲がってるとしっぽが短いような感じがする、あっはははははは。しっぽを治してあげたいなぁって思うけど、どうやって治してあげようかなぁって分からないんだよねぇ、えぇ。クロちゃんは普通の人間と同じ黒と白の目ですね。クロちゃんは私と飼育員Bとのこどもですね。わたしは総合飼育員だもんで。あのぅ、わたし産んでいません。お友達で前から抱っこしてて懐いちゃったんです。あとは、よく毛が抜けちゃって、わたしがなでてると毛深くなちゃって……あっはははははは。あとは、よくコピー機の上で、こうやってなでてやると、けっこうゴロゴロゴロゴロォ音が大きいんですよね、けっこう……あとねぇ…………はい、インタビュー、ありがとうございました。」
(ラン屋・カメ屋は自分で原稿に目を通し、自分の喋ったことと違うことを書くと「ちょっとぉ、訳さないでくれるぅ」とうるさいので、まんま載せます。意味のとれないところもあるかとは思いますが、お見逃しください)

飼育員B「最後に宣伝でも、どうぞ」
ラン屋・カメ屋「いまランのシンビジウムと、セッコクと、ワイヤープランツ、あとはパイナップル安売りしてますよ、1個100円ですよ。ラン屋ぁぁラン屋ぁぁ。アフリカゾウがですね」
飼育員B「え?」
ラン屋・カメ屋「アフリカゾウがですね、密猟されたんですよ
飼育員B「はぁ」

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あふりかぞう みつりょう
注:ラン屋・カメ屋は毎日、新聞をチェックし、動植物に関する記事を切り抜き、スクラップにします

ラン屋・カメ屋「それでポスターを作ったんで、ご覧下さい。えっと、それで、ここは動物園じゃないんですよ。動物が檻に入ってないし、ふれあい広場みたいな感じですね。だからですねぇ、生物救急センターに指定されたんですよ」
飼育員B「誰に、やねん」
ラン屋・カメ屋「源氏山のおばけ、に。」
飼育員B「……はぁ。」
ラン屋・カメ屋「ですからぁ、ここは生物救急センターで、ラン屋・カメ屋も、センターのなかの系列会社なんですよ。まぁ、会社みたいなものかな。いやいやいや、違うな、売店……」
飼育員C「売店?」
ラン屋・カメ屋「いやいやいや、お店……お店みたいなものなんですよ。だから、クロの前に、わたしを載せてくれないと10万円……罰金支払いますよっ!」
飼育員C「払うの? あんたが?」
ラン屋・カメ屋「いやいやいや、違う違う。1週間にいちど、わたしを出してくれないとブツぞ。このアホタレー、まったく世話のやけるひとだ。」
飼育員B「1週間にいちどなんてハイペースで更新できないんですよぉ、すいませんねぇ……」

てなわけで、次回は上方からやってきたオサム&ユキオ兄弟の登場です。
文豪から名前をもらいましたが、ふたりとも自殺してるってことにあとから気づいて……君たちは自殺なんてしないよね? ね?
(飼育員@時雨)

投稿者 柳美里 : 2006年08月31日 13:14

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コメント

ラン屋・カメ屋君てほんとにユニークな方ですね。いう事がおもしろくて、笑いながら聞いてると「何で笑うの!?」と怒ったりしませんか?
ここのお写真はデジカメで撮ってるのですか?遠近感があってとてもフォーカスの合わせ方が上手ですね。
特に“眠れる森の美女園長さん”のがよかったです。
まあだだよ~のクロちゃんはカレンダーにできそう~!!

投稿者 sachiko : 2006年08月31日 18:56

柳さんが、モナリザに見えます・・・
綺麗だ!!

投稿者 高藤 : 2006年08月31日 22:56

お褒めいただき光栄です。ありがとうございます。
写真はすべて愛機、キャノンのeos kiss digital (N とかではありません)で撮っています。

投稿者 時雨@飼育員 : 2006年08月31日 23:59

えんちょお!
日に当たって寝たら焼けますよ!
うっかりウトウト私もしますが、日差しが動いて来て、ジリジリ暑くて目が覚めます。
やばい!ってね。
寝顔のシルエット、モナリザみたいじゃないですか?

投稿者 choco : 2006年09月01日 00:10

園長・・・。
いいじゃんか!!
ちょっと、こんな女どっかで見・・・?


「私は 透明感。」


おい、CMじゃないんだからっっっ!!!w


(ごめん、一人でウケてるよw)

ラン屋・カメ屋・・・密猟ってか。
密猟の意味をリンク先から知った26のババァを許して・・・(TT)すまねぇ。

投稿者 ぴっぴ : 2006年09月01日 07:09

すごい。
高藤さんのコメント、私が書き込んだときにはまだアップされていなかったので、同じ事感じた方がいらっしゃるんだと思ったらちょっとうれしいです。

投稿者 choco : 2006年09月01日 10:37

モナリザっ…たしかにっ!!

モナリザのあの絵を、柳さんの顔で絵にするとピッタリしそうな気がします。

作家がイスに座りながら、膝の上にネコを乗せて頭を撫でているイメージってどこから来てるんでしょうか…
「作家と猫」って絵になりますよね。

投稿者 かうあ : 2006年09月03日 06:39

う〜ん、気になる、気になるぅ。
らん屋かめ屋さんの左っかわの文字。。。チラッとアルファベット
や数字が覗いていて、訳ありそうですね。

長崎の雲仙災難があった時、東京で一匹里子に貰いました。既に年寄りで足の悪い猫ちゃんでしたが、田舎に連れて帰った夏、猫集会に参加したかったのか、夜中こっそり抜け出したようで、車に轢かれた姿で朝方近所の人が発見したことを思い出しました。
今も里子に貰ったワンコが一匹、私の膝で寝ています。
我が子よりも言う事を聞くし、口答え一切しないし可愛いもんです。

投稿者 はなび : 2006年09月03日 08:38

ご挨拶が遅くなりましたが、開園おめでとうございます。

更新されるものが楽しみです。クロちゃん、黒い毛並みに深みがありますね。

オサム&ユキオ兄弟は、どんな動物でしょう。猫なのか犬なのか、何がでてくるのでしょう?楽しみです。

投稿者 渡辺英美 : 2006年09月04日 04:20

アメリカからはじめまして。

柳さんの近況がわかるページが再開しましたね。元気そうでなによりです。
私は柳さんと同じ昭和43年さる年生まれ。そしてうちのボーズはタケくんと同じ小学校一年生。子育てっていろいろありますが、子供の笑えるコメントに日々助けられてる私です。タケくんもなかなか笑える存在のようで。
これからも更新楽しみにしてます。

投稿者 さる : 2006年09月04日 10:38

さるさん、はじめまして!!
アメリカから飛んできてくれているかたが、
何人かいらっしゃいますね。
さるさんは、アメリカのどこですか?

ラン屋・カメ屋の昨日のヒットは「便秘」でした。

①わたしとラン屋・カメ屋が、かめの世話をし、飼育員がその様子をデジカメで撮影していたところ、

飼育員「あっ、電池切れた。替えてくる」

ラン屋・カメ屋「便秘切れた?」

②安物(2千円)のドライヤーをレジに持ってったところ(E・コッカー・スパニエルのランの毛が厄介なんです。ドライヤー1本だと乾かすのに1時間かかります。飼育員と園長が、手に手にドライヤーを持って乾かせば、30分で完了するのではないかと気づき、駅前の東急に買いに行った次第です)、

店員「これ、現品限りなんですけど……」

ラン屋・カメ屋「便秘限り?」

ヨゴレ芸人まっしぐらです。
眠る前の「オナラ芸」というのもあるんですが、
これは、今度、飼育員に書いてもらうことにしましょう。
ではでは、ムキ、キーッ!!

投稿者 柳美里 : 2006年09月05日 08:50

きゃー!コメントにお返事頂けるとは思ってなかったのでちょっと動揺しています。

アメリカはイチローさんや城島さんのいるマリナーズで有名なシアトルからです。先週あたりから、日差しがとっても秋っぽくなってきました。こうなると、すぐに暗い冬がやって来るー。

うちのボーズの学校もいよいよ明日から始まるし、夏も終わりです。こっちの学年は9月から始まるので、日本のお友達からは半年遅れてやっとピカピカの一年生。黒のランドセルじゃなくて、スターウォーズのリュックをしょって通います。

そうそう!子供と話してると、この空耳アワー(古いか?)のような聞き違いで笑えますよね。本人は大真面目なんで、さらにおかしい。

おっと・・そろそろ支度して仕事にいかなくちゃ。今朝は早起きして、柳さんのお返事チェックできでうれしい朝でした。
ではまた!ムキ、キーッ!!

投稿者 さる : 2006年09月05日 22:23

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